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神戸家庭裁判所 昭和57年(家)1195号 審判

国籍 フランス 住所 神戸市中央区

申立人 フランス国○○総領事館事務 所長ミシェル・スレッソン

国籍 フランス 最後の住所 神戸市兵庫区

遺言者 ピエール・ペシネール・シャルル・ドレール

主文

本件遺言書検認の申立を却下する。

理由

一  申立人は本件遺言書の検認を求めた。

二  本件記録並びに申立人審問の結果を総合すると下記の事実が認められる。

1  申立人はフランス国副領事であり、同国○○総領事館事務所長であり、本遺言書の保管者であること。

2  遺言者はフランス国籍を有するもので、一九八一年三月三一日神戸市において死亡した。

3  遺言者はこれに先立ち、一九八一年三月一二日在○○フランス総領事館に出頭して、在○○フランス国総領事○○○○○○○○の面前で、申立人である副領事、○○総領事館事務所長ミシェル・スレッソン立会の上、証人エディットデビュール、同ジャンアルベルト出席のもとで、遺言者は口述し、これを総領事○○○○○○○○が録取した上、これを読み上げ、遺言者は自らの遺言を正確に表現していることを認めた上、上記証人二人、総領事、副領事と共に署名して別紙のとおりの本件遺言書は同文のもの二部作成され、その一部はフランス外務省に送付されて同所で、残り一部は申立人によつて保管されていること。

4  フランス国の「外交官、領事の公証人としての権限に関する一九六一年一月九日付政令六一-三五」により、フランス国の総領事並びに領事館事務所長はいずれも外国においてフランス国の公証人としての権限を有していること、及び、同政令により、公正証書としての遺言書は、副領事である事務所長の補佐をうけ、二人の証人立会の上、領事館長によつて受けつけられることが定められ、本件遺言書は上記規定に従つて受けつけられたものであること。

5  なお、本件遺言書中に指定された遺言執行者はスイス国チューリッヒにある○○○○○○に対し預金の払戻を請求したところ、本件遺言書は日本民法一〇〇四条の検認手続を経ていない点に疑問を抱いた○○○○○○はこの請求を拒否していること。

三  日本国の法例二六条一項によると遺言の成立及び効力はその成立の当時における遺言者の本国法によることとされ、また遺言の方式の準拠法に関する法律第二条によると遺言はその方式が、行為地法、遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法律、遺言者がその当時住所又は常居所を有した地の法律、不動産所在地法の何れか一に適合するときは方式に関し有効である、と規定されている。

本件遺言者は前記のとおりフランス国籍を有していたので、その方式を同国民法によつて検討する。

四  同法九六九条には通常方式の遺言は自筆遺言、公正証書遺言、秘密遺言の三者が認められ、同法九七一条ないし九七五条に公正証書遺言の方式が規定されているところ、本件遺言はこれらの要件を全て充足していることが明らかであるから、フランス民法上の公正証書遺言の方式に関し有効であるということができる。

同法九九九条は外国に在るフランス人は九七〇条の私署(自筆)遺言又は証書作成地の方式の公正証書によるべきことが要求されているが、少くとも上記一九六一年一月九日付政令六一-三五の発効以後は、公正証書による遺言には証書作成地の方式のほかフランス本国の方式によることも認められるようになつたものと解せられる。

五  そして遺言の執行前に相続開始地の一審裁判所に遺言書を提出して開封し公証人に寄託すべきことを規定するフランス民法一〇〇七条は自筆遺言書又は秘密方式の遺言に限り義務づけられており、公正証書遺言についてはこのような手続は存在しない。これと類似した手続として遺言書の検認手続を義務づけている日本民法一〇〇四条一項も同様に同条二項によつて公正証書遺言には適用を解除されている。

六  そうすると、本件遺言書は、公正証書の方式によるものであるから、フランス民法によつても、日本民法によつてもともにその執行開始前になすべき効力発生要件としての家庭裁判所による検認手続は必要としないことが明らかである。

よつて本件検認手続の申立は、不要な手続を求めるものであつて理由がないから、これを却下すべきものと判断し、参与員○○の意見をきいた上、主文のとおり審判する。

(家事審判官 三好徳郎)

別紙〈省略〉

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